【健康診断項目】心臓のさまざまな働きを評価する「心電図」

心電図検査とは?
心電図検査とは、心臓が発する電気信号を波形として記録する検査です。波形の動きから心臓の働きを評価して、心疾患の発見や診断、治療方針の決定などに役立てます。
健康な心臓では、規則正しい波形が現れますが、何らかの原因により不整脈(ふせいみゃく:心臓のリズムが不規則になる病気)がある場合は、波形が乱れて現れます。
検査自体は、短時間で実施可能で患者への負担が少ないのが特徴です。心電図検査は、健康診断や病院で行われる基本的な検査の一つであり、さまざまな心疾患のリスクを知るために役立ちます。
心電図の正常波形と異常波形
心電図の正常波形と異常波形の詳細は下記の通りです。
項目 | 詳細 | 正常 | 異常 | 疑われる病気 |
心拍数 | 一分間に心臓が動いた回数 | 60〜100回/分 | 60回/分以下 | 徐脈性不整脈(じょみゃくせいふせいみゃく) |
100回/分以上 | 頻脈性不整脈(ひんみゃくせいふせいみゃく) | |||
P波 | 心房(しんぼう:血液を受け取る部屋)が動き始めるときの波形。波形の始まり | 幅0.1秒未満 高さ2.5mm未満 | 波の幅が広がる、山が2つに分かれる | 僧帽弁狭窄症(そうぼうべんきょうさくしょう) |
波が高くとがる | 肺塞栓症(はいそくせんしょう) | |||
PQ間隔 | 心房から心室(しんしつ:血液を送り出す部屋)が動き始めるまでの間隔 | 幅0.12秒以上〜0.20秒未満 | 間隔が短い | 早期興奮症候群(そうきこうふんしょうこうぐん) |
間隔が長い | 第一度房室ブロック(だいいちどぼうしつ) | |||
QRS波 | 心室から心臓全体が動くまでの波形。波形の中で一番高くなっている部分 | 幅0.10秒未満 | 波が広い | 完全脚ブロック(かんぜんきゃく) |
波が狭い | 不完全右脚ブロック(ふかんぜんうきゃく) | |||
QT間隔 | 心室の動きが終わり、回復するまでの間隔 | 男性:0.44秒未満 女性:0.46秒未満 | 間隔の長い | 低カルシウム血症、低カリウム血症 |
ST部分 | 心室の動きが終わり、回復が始まるまでの部分 | 波のない状態 | STの上昇 | 急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)、異型狭心症(いがたきょうしんしょう) |
STの低下 | 心室肥大(しんしつひだい) |
出典:
理学療法学 「心電図のみかた」
日本人間ドック・予防医療学会「標準12誘導心電図検診判定マニュアル(2023 年度版) 」
異常波形からわかること
異常波形からわかる病気を一部紹介すると下記の通りです。
病名 | 詳細 |
心房細動(しんぼうさいどう) | 心臓の心房が細かく不規則にけいれんする病気。心臓内で血液がよどみ脳梗塞(のうこうそく)の原因となる血の塊ができるリスクがある |
心室頻拍(しんしつひんぱく) | 心臓の心室が独自に動き心臓が正常に動けていない状態。心疾患の病歴がある人や発生の数が多い人は危険な場合がある |
心室細動 | 心臓の重要な役割を担う心室がけいれんしている状態。血液を全身に十分に送り出せず心停止と同等の危険な状態になる |
急性心筋梗塞 | 心臓の血管が急激につまり、心臓に栄養や酸素が十分に届かなくなる病気。心臓の細胞が壊れてしまい危険な状態になる |
異型狭心症 | 心臓の血管が狭くなる病気。決まった時間や決まったきっかけにより症状が出現する特徴がある |
僧帽弁狭窄症 | 心臓の中に存在する弁がうまく開かなくなり、十分に血液を送り出せなくなる病気 |
肺塞栓症 | 特定の原因で血液の中に流れ込んだ、血や脂肪の塊によって血管が詰まってしまう病気 |
心室肥大(しんしつひだい) | 高血圧などが原因で心臓に負担がかかり、心臓が大きくなる病気。血液を送り出す力が弱くなってしまう |
電解質異常(でんかいしついじょう) | 血液の中のカリウムやカルシウム、ナトリウムなどのバランスが崩れている状態 |
出典:
日本人間ドック・予防医療学会「標準12誘導心電図検診判定マニュアル(2023 年度版) 」
日本循環器学会 「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」
日本心臓財団「異型狭心症における冠動脈造影所見と臨床像との関係」
日本心臓財団「臨床急性肺塞栓症の早期診断」
心電図上の異常が軽微である場合は、詳細な検査や治療は必要ないと判断される場合もあります。ただし、胸の痛みやめまい、動悸(どうき:胸がドキドキする症状)などの症状がある場合は、詳しい検査を受けることを推奨します。
異常波形の原因は?
異常波形の原因は、心臓の筋肉の酸素不足や炎症、障害などです。これらの原因は前述した心室肥大や狭心症、心筋梗塞などの心疾患により引き起こされます。
心疾患にも当然原因があり、下記のようなものが考えられます。
- 高血圧
- 動脈硬化(どうみゃくこうか:血管の弾力性が失われている状態)
- 遺伝
- 薬の影響
- 電解質バランスの乱れ
- 加齢
特に高血圧は動脈硬化を進行させてしまい、さまざまな心疾患を引き起こす原因です。高血圧の原因は塩分のとりすぎや肥満、飲み過ぎ、運動不足などの生活習慣の乱れです。異常波形を引き起こす病気を発症させないためにも、健康的な生活を心がけましょう。
異常波形を治すために
心電図で見つかった異常波形を治すためには、適切な治療が必要です。異常波形は、心臓の状態を反映しているため、原因を特定してその根本的な病気を治療しなければなりません。
例えば、頻脈性の不整脈の治療は、薬物療法の他にカテーテルアブレーション(カテーテルという管を心臓まで入れて原因部分を電流により壊す治療)によって根治できる可能性があります。
心室頻拍などの生命に危険を及ぼす可能性がある不整脈や徐脈性の不整脈には、植え込み型除細動器やペースメーカーが検討されます。健康診断などにより異常波形が見られたら、医師に相談して必要な検査や治療を早期に受けることが大切です。